認知症と歯科 「認知症になったらまず歯科へ」はなぜ?

身体のこと

認知症とは

認知症とは病気の名前ではなく例えば腹痛や頭痛のようなもので、様々な病気が原因で起きる「症状」です。「物忘れがひどい」「今日が何日かわからない」といったいくつもの症状の集合体です。しかし、症状が多少現れていても生活に支障がない範囲であれば認知症とは診断されません。つまり認知症とは「生後いったん正常に発達した種々の精神機能が慢性的に減退・消失することで、日常生活・社会生活を営めない状態」ということを言います。

中核症状や周辺症状といった症状が現れますが、ざっくりいうと「いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったためにさまざまな障害が起こったために今まで当たり前にできていたことができなくなって自分や周りの人が困ってしまう状態」と言えると思います。

認知症イコール物忘れというイメージがあるかもしれませんが、認知症のタイプによっては人格が変わったり幻視・幻聴といった症状が強いものもあります。

認知症の診断・治療はお医者さんで行うので、歯科では直接認知症の治療を行うわけではありません。ではなぜ「認知症になったらまず歯科へ」というタイトルのようなことを言うのかといいますと、まず認知症の方は、病状の進行に伴い歯科医院への通院が難しくなるという問題があります。

認知症患者さんが歯科医院へ足が遠のく理由

・今まで一人で通院できていたが、車の運転が困難になったり、公共交通機関を利用できなくなったりして誰かに送迎してもらわなければいけなくなった。

・口を長く開けていられなくなった。

・歯科治療の怖さに耐えられなくなった。

・階段や段差が苦になってきた。

バリアフリーの歯科医院が多いですが、病院に行くまでの間にも小さい段差があったりします。

・「右で噛んで」とか「奥で噛んで」とかの指示がよくわからなくなった。

このように足が遠のきやすくなるのに反して、認知症の初期からお口や食に関するトラブルが現れてきます。

認知症の方は歯の痛みを訴えるか?

認知症の方は痛みを訴えるでしょうか?一般に認知症の方はこれらを訴えることが困難になるといわれています。これは、痛みを感じにくくなる「感覚異常」の症状と、痛みを言葉などで表現できなくなることがあわさることで起こります。たとえば、歯ぐきに入れ歯による大きな傷があったとします。当然、入れ歯の出し入れの時、入れ歯を入れて食事をするときに痛みがでるはずです。しかし、入れ歯の出し入れの時、食事のときに「いたい」と3文字の言葉で状態を伝えてくれるかというとなかなか難しくなります。しかし、食事の前に入れ歯を入れるように誘導しても入れなかったり、入れてあげようとしても口を閉じてしまって入れさせてくれなかったり。また、食事を食べない、食事の介助を拒否するなど日常の変化が見られたりします。

記憶障害と歯科にまつわる問題

認知症にみられる記憶の障害は、日常生活における洋服の着がえや食事、排泄など身近な出来事について体験そのものを忘れるといった症状です。記憶に障害があると、歯みがきをしたかどうか忘れることや、入れ歯の紛失のようなことが起こります。大事な物だからと思うのか? 恥ずかしい気持ちが働くのか? 入れ歯を外した後にティッシュペーパーに包んで置いて、忘れてしまい、捨てられたり自分で捨ててしまったという話はよく起こります。

実行機能障害と歯科にまつわる問題

「実行機能」とは、物事を順序立てて計画的に行う能力のことです。食後に必要な口腔ケアにまつわる行動を考えてみましょう。夕食を食べ終わったので、入れ歯を外して、入れ歯を入れ歯ブラシで洗い、入れ歯洗浄剤のバックを開け、洗浄剤を取り出し、入れ歯ケースの中にいれ、先ほど外した入れ歯をその中に投入する。さらに、歯みがき剤のチューブのふたを開け、適量を歯ブラシにつけ、キャップを閉じる。その歯ブラシを使って歯をみがき、コップに水を入れてうがいをし、歯ブラシを洗って、歯ブラシ立てにたてます。このような、順序立てて物事を進めていくことが徐々に難しくなります。

手続き記憶の残存と歯科にまつわる問題

手続き記憶とは、いわれる体で覚えているような記憶でこれらの記憶は比較的保たれる場合が多く、車の運転が可能であったり、楽器の演奏ができたりすることができます。認知症の高齢者の車の事故など話題になることが多くなりましたが、手続き記憶が残っているために運転操作はできるのですが、判断が鈍ったり、人や物の認識ができなくなって事故が起きてしまうということです。認知症が重度になっていても、歯ブラシを手渡すと、体で覚えている手順に従い歯みがき動作ができる場合があります。これは手続き記憶による動作といえます。しかし、むし歯や歯周病が予防できるレベルまで歯みがきができるかというと疑問が残ります。さらに、重症度が進んだ場合、歯ブラシという道具の意味が失われると、歯ブラシを何に使うものかの判断できなくなり、自分だけでは、有効な歯みがきはできなくなります。

むし歯や歯周病が悪化する

8020を達成された方であれば、歯みがきを毎日忘れることなく行い、みがき残しがなくしっかり歯みがきをされてきたはずです。ところが認知症の方は、早い時期から、全般的に自分で物事をやろうとする意欲が低下し、臭いに鈍感になることが知られています。つまり、お口のお手入れが急速に苦手になってしまい、そのため、あっという間に健康だった歯がむし歯や歯周病になります。

入れ歯の扱いが難しくなる

入れ歯には向きがあります。入れ歯を正しくつけるためには、物の形の認識と、物の向きの認識ができる必要があります。認知症の方の入れ歯の使用が困難になる原因の一つに、入れ歯という道具の意味がわからなくなる「意味記憶」の障害とともに、物の形や物の向きがわからなくなることも影響を与えます。

初期の認知症において歯科での大切なこと

いろいろなお口のトラブルが起きても歯科治療を受ける力が保たれている認知症の初期の段階であれば、集中的かつ積極的な介入によりお口の中の整備が可能です。この時期にお口の中の環境を管理しやすい状態に整備しておくことは、認知症が進行した際に大きな財産となると考えています。きめ細かい、より良い歯科診療を受けられるのはそれほど長くないかもしれません。認知症患者さんに早い段階で歯科が関わることでお口の中にいわば貯金を作って、現時点では抗うことが困難な次のステージに備えることができると考えています。

具体的にどのようなことを行うか。まずは、徹底的な予防処置を行います。口の衛生状態が悪化し、むし歯や歯周病にかかりやすくなっている恐れがあるからです。また、歯科医院を受診することができるうちに、集中的にさらに積極的に治療を行います。むし歯や歯周病が重度で抜歯に悩む歯は、今のうちに抜歯しておきます。さらに、適合が悪く食べ物のカスが詰まるような入れ歯も今のうちに作り替えるなどします。 「今、歯は痛くないから・・・」「痛くなったら・・・」などと言いながら先延ばしにしていた治療もしっかり行っていくことが必要です。インプラントや複雑な形の入れ歯に関してもよりシンプルな形への変更が望ましいです。家族でも外しやすく歯みがきのしやすい形に直してもらいます。次に歯科医院に来る時は、なかなか口を開いてくれなくなっているかも知れないからです。しっかりとした治療を受ける必要性が理解できるうちに、良い治療を受けておくことが大切です。

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