認知症と歯科 よく噛んで味わうことが脳を鍛える

身体のこと

皆さんは、口の中に食べ物が何もない状態で「噛む」動きを上手にできるでしょうか。きっと難しいはずです。しかし、ご飯粒が1粒でも口の中にあれば噛むことができるでしょう。

 普段自然に行っている「噛む」という行為、専門的に言うと咀嚼と言いますが、大きく分けて2つの役割があります。まず、食べ物を細かく砕いて唾液と混ぜ合わせ、飲み込みやすいように団子状にすることで、これを食塊形成と言います。もう1つは噛む動作の中で、食べ物の安全性を確認することです。ご飯の中に砂の粒1つ入っていても分かりますよね。口の中の感覚はかなり敏感なのでそういうこともできる訳です。このように口の中では、とても高度な作業を行っています。

「食べること」という動作の流れ

「食べること」に大きな役割をしているのが脳です。「食べること」と一言で済ましてしまいますが、できるときには無意識で行っていることなのですが結構複雑なことを行っています。

⑴食べ物を認識する

⑵食べ物の場所を確認する

⑶食べ物を口に運ぶために必要な道具を判断する(箸・スプーン・フォークなど)

⑷道具を適切に持つ

⑸道具を使って食べ物を口に運ぶ

⑹くちびるを閉じる

⑺食べ物を噛みつぶして食塊を作る

⑻気道を閉じて食道方向へ食塊を送る(飲み込む)

この工程の1か所でも滞ると食事はスムーズにできません。

「食べることが難しくなった」という方の4人に1人は認知症が原因です。認知症による障害のために司令塔である脳がうまく働かなくなると、口を開かない、食べようとしない、ため込む、いつまでも噛んでいる、スプーンを噛んでしまうなどのトラブルが起きます。このトラブルは障害の内容によって大きく4つに分けられます。

  • 運動機能障害
  • 手続き記憶の障害
  • 失認
  • 実行機能の障害

の4つです。それではそれぞれを見ていきましょう。

運動機能障害

これは箸が持てない、噛めない、飲み込めないといった筋肉を動かすことに障害が現れたものです。⑷⑸⑹⑺⑻です。この場合は残された能力を100%引き出してあげる環境改善に取り組むことになります。食べ物の形を変えたり、例えばとろみをつけるとか、食べ方や、姿勢などを工夫して少しでもやりやすい状態に持っていきます。

手続き記憶の障害

先ほども出てきました体が覚えているというものです。お箸を上手に使っているのでちゃんと食べているのかと思っても、食べるペースやひと口量が守れずに、窒息の危険を伴うことがあります。⑸や⑺がそれなりにできるけど正確ではないということですね。また、食事をした体験そのものを忘れていて、食事を食べさせてもらえないと訴えることもあります。ものの使い方を忘れてしまい、お箸で字を書こうとしたり、歯ブラシで髪の毛をとかしてしまう場合もあります。

失認

五感に異常がなくても、感じたものを正しく認識できない症状を「失認」と言います。例えば、目で見たものが知っているものでも、「それが何であるか」という知識と結びつきません。食べ物についても同様で、見た目や味などで「食べ物である」という認識ができません。そのため、食べ物ではないものを口に入れても判断できず、そのまま吐き出さずに飲み込んでしまいます。これは⑴ですね。

実行機能の障害

⑴から⑻の流れが分からなくなった状態です。料理を前にしてもキョロキョロと周りを眺めているだけで、食事が始められないなど、食べる手順が分からなくなる状態です。この場合は一緒に食事をして、食べる手順を見せてあげることが有効です。

認知症の予防

ではそもそも認知症というのは予防できるのでしょうか。はじめに歯周病を治療することで認知症は予防できるとお話ししました。歯周病以外の項目は先ほどの図の噛む力の低下という所と、歯の数の減少・喪失という所です。

数多くの研究報告から、歯や口と認知機能の深い関わりが分かってきました。たとえば、認知症の発症と歯の本数との関係を調べたものでは、歯の数が20本以上ある人と、歯がなくても入れ歯やインプラントなどもない人とでは、認知症になるリスクは1.9倍と大きな差異が見られたのです。

認知症の予防にはいろいろな刺激を脳に与えることで脳を活性化させることが効果的です。運動をしたり、手芸など細かい手先の動きをしたり、映画や本を読んで感動することもいいでしょう。ご夫婦や友人と旅行に出かけたり、何か達成感を感じるようなこともいいですね。よくないのは1日ぼーっとしているだけで何もしない。起きて寝るだけ。何の刺激もないという状態です。使わないものは衰えていきますので、積極的に使ってあげましょう。

噛むことは食べ物を歯で噛みくだき、唾液と混ぜ合わせる複雑な運動の組み合わせです。噛む筋肉や舌などもうまく使わなくてはならず、 脳への刺激も大きくなります。歯の周りの神経や歯ぐきからの刺激も脳へ伝えられて刺激となります。噛むことを意識して食べると脳が活性化しやすくなり、 脳の感覚や運動、記憶や思考、意欲を司る様々な部分を刺激します。また、顎の筋肉の働きで脳への血流が良くなり、これも脳の細胞を活性化します。これらのことが認知症の予防につながります。

余談ですが、噛む力が低いと感じている人も、1.5倍のリスクがあり、かかりつけ歯科医院がある人とない人での比較でも1.4倍のリスクがあることが同じ研究で分かりました。

他にも噛むことは唾液の分泌を促すことで味がよくわかるようになったり、唾液の中の酵素が発がん性物質の作用を消したりといった様な身体の健康にいいことばかりです。よく噛んで食べるためには、ゆっくりと食べること、お茶や水で流し込まないことが大切です。歯応えのある物を、栄養バランスを良く考えてゆっくりよく噛んで食べましょう。

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